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2010年第78回ルマン24時間耐久レース
開催日程
2010年6月12日(土)/6月13日(日) 決勝レース
会場:フランス サルテサーキット
チームJLOCオフィシャル http://www.jloc-net.com/index.html
ルマン24オフィシャル http://orig.lemans.oceanet.eu
昨年11月に行われたアジアンルマンシリーズの優勝を条件に、このレースへの参加が正式に認められ、チームはこのレースに向けて新しい車を用意し、GTでいつも顔を合わせている、殆どが日本人のメンバーで望んだ。
日本では何度もレースしてきているムルシエラゴですが、ルマンで使うのはR-SVという最新バージョン。 ルマンの前の週に今回ルマン初参加となる井入選手がスパフランコルシャンでシェイクダウン。一部のメンバーと共に一足早くルマン入りした。
僕等は日曜日日本を発ち、その日にフランスに着いて、少し遅れてくる則竹代表を空港で待つことになっていた。1時間ほどしてから合流したが、なんと90KGのミッションと、60KGのデフ、合計150KGを手荷物で持っていくという前代未聞の事件!?だ。荷物を受け取ったあと、全員でレンタカーに運ぶ。当然重い・・・
自分の荷物もスーツやアンダーウェアを含めて、レース中の食事も自分用のを持っていくのでいつもよりずっと多い。サーキットに荷物を下ろし、ホテルにチェックインして、翌日恒例のジャコバン広場での公開車検に望んだ。ドライバー受付や簡単なインタビューなども終え、市内で食事する。
火曜日は一日休養日だが走行以外にもやることは山ほどある。初めて座る新型車、R-SVのシート合わせ。スイッチ類の確認。荷物の整理、打ち合わせ。午後はシャンボール城を見に行って再びサーキットへ。翌日の予選に向けて準備で一日を終えた。
水曜日からはいよいよ予選だ。R−SVは旧型にはない全開シフトやエアコンも装備していて長いレースには重要なアシストが完備している。初めての走行は、とても慎重になった。無線の問題もあってPITに入るタイミングをずらし4分16秒台に留まる。しかしそれなりにコースもしっかり覚えていて、違和感はぜんぜんありませんでした。井入選手がコースになれるため殆どの時間を走行。タイヤがバーストし、その後も幾度となくタイヤサイドに亀裂が入る問題の対策に追われた。解決策を見出してからは全く問題はなくなった。その後は路面の轍に敏感に反応し、ハンドリングには問題があり、改善する事が必要だった。
木曜日の予選は、昼間の雨が残るかと思ったが、レインコンディションでスタートして、直ぐにドライタイヤでのアタックとなった。中古タイヤの状態で車を受け取り、直ぐに4分5秒台が出た。予選モードで走っていたので予想通り。クラス7番手に上がり、1時間後に再開する予選で新品タイヤを履いて再度アタックする予定だった。車はバランスが少し悪くなって改善する必要があったので決勝を睨んで無理はしないつもりでした。それでも2周のみの与えられたアタックで明らかに速いイメージだった最後の周に渋滞で3秒ほどロスした。タイムは結局4分5秒台に留まってしまった。これは悔しい。クラス8番手で予選を終える事になった。ヘッドライトは以前と比べても明るさは充分だが多少角度を変えた。決勝の準備は優先的で怠らない。
金曜日はドライバーズパレードなど、一日中イベントが行われる。地元ファンがドライバーへの敬意の表れというかものすごい異常な歓迎でロックミュージシャンみたいだ。この日もルマン市内で監督と食事をして、翌日のレースに備えてミーティング。とにかく無理をせずに完走を目指そうということで確認してホテルへ戻った。
土曜日はいよいよ決勝が始まる。前日遅くホテルに戻り、朝9時からの走行にあわせ7時に出発。眠い。フリー走行は前日の雨が残りレインコンディションとなったが、走り始めて直ぐにトラブルでピットイン。作業ミスがあったようで、どうやらこの時間の走行は不可能となったようだ。一日中晴れでも毎晩雨という天気が続いていて、レース中降らない方がおかしいよと誰かが言っていたが、レインコンディションの確認が一度も出来てないのはレースに対しては不安だった。(結局レース中は一度も雨が降ることはなかったのだが)
決勝決勝は、スタートからそれぞれが自分のタイヤで2スティントずつ1順目を走り、2順目からはそれぞれが3スティントずつ走り、順調に行けば僕がチェッカーを受ける予定だ。余郷選手からスタート、2スティントを走り、井入選手に交代、しかし派手にタイヤがバーストした。交代時間にPITに入ると車はリヤ部分がばらばらに飛び散っていた。初日のバーストの問題は既に解決済み、という解釈だった為、全員疑心暗鬼になった。修復作業に何時間か掛かり、タイヤも新しく再スタートし、1スティントを走り僕に交代となった。予定の3スティントを走りきるためのタイヤのチェックを含めてそのままタイヤ交換なしで、2スティント、3スティントのタイヤがの状態をチェックする役割だ。ミッションが入り辛いということでかなり注意を促された。皆必要以上に焦りすぎていたとは思う。
予選以降初めての走行だったが、ダウンフォースバランスと車の安定性はずっと優れていたのであまりプッシュしていなくてもタイムは安定している印象が強い。2スティント走り、ギヤの問題とタイヤの問題を確認する事に終始して、最初の走行を終え交代した。2順目に入り、余郷選手から、自分のタイヤで3スティント走る、当初のスケジュールに戻った。3スティントを無事走り切り、井入選手も2順目の走行に移る。1時間の走行後ミッションが入らなくなって、PITイン。僕が2順目の走行に備えて準備をしてPITに戻った頃にはまだミッションの修復作業中だった。2時間遅れで再スタートし、1時間を経過した頃、またしてもミッショントラブルでPITイン。トラブルの連絡は随時あったが、いつスタート出来るかも判らない状況にとてもやきもきしていた。修復予定が見えてあと2時間で再スタートという頃には既に朝を迎えていたが、規定周回数の問題をACOから告げられてこのレースを終えた。僕は結局2順目の走行はならず、138ラップでのリタイヤという結果でした。僕がリタイヤを告げられたときは、暫くその場で全身の力が入らなくなってしまった。
何かが起こる前に起こらないように全て事前に解決したかったがそれは出来なかった。どこがどう問題が起きるか予測するのは実際には誰にも解らないしとても難しい事だ。そうならないように予防する(対策を練っておく)事だけしか出来ない。風邪をひく前に、なんとなく寒いなら厚着をして予防する。不注意に風邪を引いて、他人にうつしてしまうことは避けるべきだ。自分だけうつらない様に、ではなく、全員がそれぞれ気をつけるのが”当たり前”だと思う。車も壊れる兆候がなんとなくあれば壊れないようにしながら走るのが”当たり前”だった。全てが暗黙の了解であればスムーズにいくはずだった。うまくいかないときは誰もが特定の何かの(誰か)せいだけにしたくなるが、バランスが崩れたんだと思う。しかし、総じていえば、昨年度と比べて本当に全員がとても良くやったと思う。
僕自身は2007年以来の走行で、3年前のルマンを思い出しながらの走行でした。2006年の時のこともいろいろ思い出しながらちぐはぐな断片的な記憶が、鮮明に繋がったことは経験として残った。GTのムルシエラゴ初年度、ブレーキに問題があって完走する為に、苦肉の策で、わざと意識しペダルを強く踏まないようにしてなんとかもたせたことがあったが、今回のそれに似ていた。自分がトラブルの兆候に先に気付かないといけないと責任を感じた。アクセルを踏み急がずに丁寧に走ったが完走はならなかった。しかし出場するのが大変なレースに、再度チャレンジできたことに感謝したい。あるチームでこういうやり方をしたからうまくいったといっても必ずうまくいくほど簡単ではない。特に辛い状況の中でも逆に明るく振舞ってくれたメカニックに感謝したい。彼らは見えないところで助けになったし、エンジニアをはじめ彼らは本当に頑張った。レース後あるメカニックは自分のせいで完走ならなかったと話していた。実際には自分のせいではないけれど、自分のせいにしたいんだと話した。ルマン24時間はよく人生の縮図に例えられるが、全てがうまくいく方が珍しい訳だから。
あるチームでこういうやり方をしたからうまくいったといっても必ずうまくいく訳ではない。人それぞれだ。性格もレースに対するスタンスもそれぞれ全然違う。メカニックだって人間だしドライバーの乗り方も十人十色。それら全員のバランスを24時間うまく保つことがチームだと思う。日本のGTと同じだけきっちり1000KMの4倍準備できれば、充分通用すると確信しました。追い込めばいいということではない。たぶん全員が繋がっている。
結果的には不運でレースを終えたが、全員にとって良い経験になったし次はまた違う見方で望めると思う。AUDIのスタッフはこのレースに長い時間をかけてあらゆる生活上の犠牲を払ってきた見返りとして、2ヶ月の休養が与えられるそうです。それだけの準備をする代わりにそれだけ疲れる。ルマンは偉大なレースだが、もっと準備していけばそれだけの見返り(完走)がある予感がする。GT-1クラス優勝のサリーンを駆るラルブルコンペティションは僕等がアジアンルマンで負かした相手だった。チャンスがあれば再挑戦したい。国内のGTで良いレースが出来るように更に頑張ります!!!日本からも沢山の応援、どうもありがとうございました!!
最後にこのレースで引退をした、先輩ドライバー野田英樹選手に。英樹さんはジェミニカート出身の先輩で真のスポーツ選手でした。このレースでの引退を表明して望んで見事に完走を果たしました。ジェミニカート出身の後輩小林カムイ選手もF1で活躍中ですが、今後は素晴しいドライバーを育てていかれる事と願います。
とても印象あるレースだったので長くなってしまいました。国内のGTで良いレースが出来るように更に頑張ります。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます!!!